館山市、鴨川市、南房総市付近のスーパーをのぞいてみると、よく見かける房州酪農牛乳。地元の方たちは学校給食で飲んだ記憶もあるようで、昔から地域に愛されています。
この牛乳、ほんとにコクと甘さを十分に持つ、とても美味しいミルクなのです。
おやつマルシェでオリジナルのミルキーワッフルを作る時の牛乳として選んだのはもちろん味とともに、その地元で愛されて続けているという事実と、千葉県は酪農発祥の地であるということ。(1728年徳川吉宗公の命により南房総市の嶺岡で輸入した白牛が飼われ搾乳されたのが日本での酪農のはじまりとされています。)
この2つの理由で十分でしたが、もっとこの牛乳について知りたくなり取材させていただきました。そして、知りました。
牛乳がどれほど丁寧に作られているのかを。
房総半島の自然豊かな大地で飼育された房州酪農牛乳は昭和53年に誕生しています。
房州酪農牛乳の製造者は、千葉市若葉区にある千葉酪農農業協同組合です。
千葉酪農農業協同組合房総半島で生産された生乳のみを使用し、牛乳をはじめヨーグルト等の乳製品を製造しておられます。 例えば千葉酪農協・八千代酪農協・真栄酪農会・千葉県みるく農業協同組合などに参加されている牧場で搾乳された牛乳を集めてタンクに貯蔵、殺菌・調合、充填・梱包され、出荷されます。
総合衛生管理製造過程(HACCP)の承認を受けて、徹底した品質管理と衛生管理をもとに商品が作られています。牛乳のほかにヨーグルト、乳飲料(コーヒーや低脂肪乳)、アイスクリームなども作られています。
生乳を工場に受け入れる際には品質をチェックし、基準に満たないものは受け入れされません。もちろん工場内の各部署で細かく品質がチェックされており、安全な牛乳が作られています。
生乳には品質を低下させる細菌が多く含まれておりこれらを死滅させる必要があります。この工場では130度の高温で約2秒殺菌する超高温殺菌法というシステムで1時間あたり10トンの牛乳を殺菌し、充填されます。
これらの過程は、農家で搾乳されてから、おおむね24時間~48時間以内に行われます。この新鮮さは千葉のミルクの大きな特徴ともなっています。
生乳生産量が全国でも上位の千葉県は、東京都をはじめとする他県へ大手メーカーを通して多くの牛乳が供給されています。
そして日々安全かつ安心できる牛乳を安定供給できるよう、とりくまれているのです。
さて、製造工場の前の段階、つまり牧場ではどのように牛乳が作られているのでしょうか?
牛乳はもちろん、メスの牛が妊娠・出産することで出るようになるわけですが、そこには牛という生物に対する深い知識と愛情とともに、農業としてのビジネス的な効率化・合理化・利益を出すこと・乳質の向上など、これらをバランスよく考慮しなければなりません。
館山で昭和のはじめから4世代にわたり牧場を経営されておられる(株)須藤牧場(館山市安東)に取材に伺いました。(須藤牧場は千葉県みるく農業協同組合に所属されておられますので、この牧場で搾乳された生乳は房州酪農牛乳にも使われています)
そしてここでは、質の高い牛乳をより多く供給する、という命題に真剣に取り組まれている姿がありました。
そもそも、質の高い牛乳とはどんなものでしょうか?
生乳検査には、乳脂肪、タンパク質、乳糖、無脂固形分、体細胞数、細菌数、乳中尿素窒素、乳氷点(牛乳が凍る温度)などの項目が調べられます。 このうち、乳脂肪が多いと濃く風味の良い牛乳とされ、体細胞数が少ないものが雑みがなく、質が高い生乳とされています。(ちなみに、一般的な牛乳は乳脂肪分が3.5%であり、3.6牛乳と呼ばれる牛乳は乳脂肪分が3.6%以上あるという質の高い牛乳ということになります。)
そして、この検査により酪農家は自分の生乳がどれほどの質をもっているのかをきちんと数字で把握することができ(農協単位で質の順位まででるそうです)、さらなる良い質の生乳を作る努力をしているのです。
乳脂肪分が高く、体細胞数が少ない生乳を牛に出してもらうためには、下記いくつかの要素がありますが、須藤牧場ではそれぞれに高いレベルで対策がされています。
●牛を健康に飼うこと
⇒暑さ対策(夏には乳脂肪分が減るため):暑熱対策に優れた牛舎(大型扇風機・換気扇やミストなど)
⇒異変の早期発見:月に一度の獣医師診察、ミルクアイによる乳量把握、年4回のバルク乳細菌検査、牛という生物に対する深い知識
⇒ストレスを与えない:フリーストール(放し飼い)牛舎(日本の90%はつなぎ牛舎)、特別な搾乳設備
⇒より健康に・より清潔に:放牧による体格作り・運動、砂ベッドの採用、病害虫の駆除など
●良質の餌を与えること
⇒県南部で最優秀賞をとった自家飼料(サイレージ):飼料用トウモロコシとソルガムを作る農場を持ち、近隣の水田で得られる稲ワラも使用。おからやとうもろこしなどを混ぜた特別な飼料を与えている。(コンプリートフィーダーという大型ミキサーできちんと細かく混ぜることで牛の選り好み食べを防ぐ)
●年に一度出産させること
⇒耳標による個体管理:すべての牛の発情日、種付け日、出産予定日などがわかる繁殖予定表を作成し管理。
●生乳の質を上げる
⇒ジャージー牛の飼育:ホルスタイン種に比べ乳量が少なくコストがかかるが、乳脂肪5%前後の質の高い牛乳を出す
このような施策で生み出される質の高い生乳は低温殺菌され、牧場内にある館山の須藤牧場アイスクリームショップ「カウボーイ(CowBoy)」で味わうことができます。美人店長さん曰く「ぜひ牛乳は飲んでもらいたい!」とのこと。ミルクとソフトクリームが一緒に味わえる商品もありますのでぜひお試しを。
また、イオン館山店に「須藤牧場」という店舗があり、そちらでもいろいろな牛乳を使ったメニューが揃っていますよ。
千葉県にあるすべての酪農家がこのように牛乳を作っている、というわけではありませんが、多くの酪農家は日々質の高い牛乳をより多く生産するために努力を続けています。
そしてそんな生乳が運ばれる千葉の製造工場では、きちんとした品質管理と製造工程によって、安心安全な牛乳を安定供給してくれています。
房州酪農牛乳は、そんな千葉の誇れる牛乳なのです。
もし、南房総、館山のスーパー等で見かけたらぜひ飲んでみてください。
取材協力:千葉酪農農業共同組合・千葉県みるく農業協同組合・(株)須藤牧場
参考資料:房日新聞(みるく農協鴨川工場 7月末で48年の歴史に幕)・全国酪農業協同組合連合会・千葉県らくのうの里・須藤牧場